鶏の殺処分はなぜ・どう行われるのか——畜産学博士が解説する炭酸ガス法・と畜場・鳥インフル殺処分の違い

動物と社会を考える

ニワトリは、食肉生産や採卵産業、感染症対策など、さまざまな理由で処分されています。しかし、一口に「殺処分」といっても、その目的や方法はすべて同じではありません。

本記事では、家禽研究に携わった経験をもとに、日本で行われているニワトリの処分を5つの場面に分け、それぞれの方法、動物福祉上の課題、海外で進められている改善策について分かりやすく解説します。

  1. ニワトリは年間どのくらい処分されているのか
  2. 方法① 食肉用ブロイラーの処理
    1. 日本で主流の電気水浴スタニング
    2. 電気水浴方式が抱える構造的な問題
    3. 気絶できているかはどのように確認するのか
    4. 放血と死亡確認にも問題が残る
  3. 電気水浴方式に代わるガス気絶法
    1. CASも完全に苦痛がない方法ではない
    2. 二酸化炭素以外の方法も研究されている
    3. 日本では改善が事業者の自主判断に委ねられている
    4. 廃鶏も基本的な処理方法はブロイラーと共通
    5. 廃鶏特有の課題
  4. 方法③ 雄ヒナの殺処分──世界で変わり始めた「生まれた日に処分する」という仕組み
    1. 日本では二酸化炭素による処理が中心
    2. 世界では「孵化後に殺さない」方向へ進んでいる
    3. in-ovo sexingとは
    4. ドイツでは商業利用が拡大
    5. 日本では商業導入に至っていない
    6. in-ovo sexingにも課題は残る
  5. 方法④ 鳥インフルエンザ発生時の殺処分──感染拡大を防ぐための行政措置
    1. 法律に基づいて実施される
    2. 殺処分はどのように行われるのか
    3. 発生年によって処分羽数は大きく変わる
    4. 農家には補償制度がある
    5. 海外では別の大量処分方法も議論されている
    6. 防疫と動物福祉をどのように両立するか
  6. 方法⑤ 養鶏場で行われる日常的な安楽死
    1. 回復が見込めない鶏は早期の安楽死が必要
    2. 日本では安楽死を実施していない農場もある
    3. 農場内ではどのような方法が用いられるのか
    4. 早期発見を助ける技術も研究されている
  7. 日本と海外では何が違うのか
    1. 英国では食鳥処理場のCCTVが義務化
    2. 気絶と死亡確認の基準にも差がある
    3. 採卵鶏の飼育環境にも違いがある
    4. 国際評価では日本の課題が指摘されている
  8. 動物福祉のために改善できること
    1. 食鳥処理場で改善できること
    2. 採卵産業で改善できること
    3. 養鶏場内で改善できること
    4. 鳥インフルエンザ対策で改善できること
  9. まとめ
  10. 関連記事

ニワトリは年間どのくらい処分されているのか

「ニワトリの殺処分」と聞くと、一つの出来事を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際には、目的の異なる複数の場面があります。

処分される場面年間規模主な理由
食肉用ブロイラー約7億4,900万羽鶏肉として出荷するため
採卵を終えたニワトリ(廃鶏)約7,800万羽産卵率や卵殻品質が低下したため
雄ヒナ推計約1.1〜1.3億羽卵を産まず、肉用にも適さないため
鳥インフルエンザ発生時発生規模によって変動感染拡大を防ぐため
養鶏場内の病気・けがをした鶏正確な統計なし回復が見込めない個体の苦痛を終わらせるため

雄ヒナについては、公的な全国統計が存在しないため、採卵用雌ヒナの出荷数などをもとに推計されています。また、養鶏場内で病気やけがをしたニワトリがどの程度処分されているかについても、正確な統計はありません。

これらはすべて同じ「殺処分」という言葉で表現されることがありますが、食肉生産、防疫、産業上の選別、農場内での安楽死では、目的も処理方法も異なります。問題を正確に理解するためには、この5つを区別して考える必要があります。

方法① 食肉用ブロイラーの処理

日本で最も多く行われているのが、食肉用ブロイラーの処理です。ブロイラーは一般に約40〜50日飼育された後、食鳥処理場へ運ばれます。

標準的な処理工程は、次のような流れです。

【画像②:日本で一般的な食鳥処理の流れ】

出荷・捕鳥(キャッチング)

運搬

係留

生体懸鳥(逆さづり)

電気水浴スタニング

放血(ネックカット)

湯漬け・脱羽

中抜き

鶏肉として加工

この工程で動物福祉上とくに重要なのが、放血前に意識を失わせる**スタニング(気絶処理)**です。

ニワトリの意識がある状態で首の血管を切断すれば、痛みや恐怖を感じる可能性があります。そのため、放血前に確実に意識を失わせることが、人道的な食鳥処理の基本とされています。

日本で主流の電気水浴スタニング

日本の食鳥処理場で主流となっているのが、**電気水浴スタニング(EWBS:Electrical Water Bath Stunning)**です。

この方法では、ニワトリの両脚を金属製の器具に固定して逆さにつるし、処理ライン上を移動させます。その後、頭部を電気の流れる水槽に浸し、頭部から身体へ電流を流すことで意識を失わせます。

スタニング後には首の血管が切断され、放血によって死亡します。

つまり、電気水浴スタニングの主な目的は、電気そのものでニワトリを死亡させることではありません。放血が始まる前に意識を失わせ、放血中の痛みや恐怖を感じにくくすることです。

EUでは、ニワトリを確実に気絶させるため、電流の周波数に応じた最低電流値が法令で定められています。たとえば、50Hzでは1羽あたり100mA、高い周波数帯では120mA以上が必要とされ、スウェーデンではすべての周波数帯で120mAが求められています。

しかし、基準値を設定すれば、すべてのニワトリを確実に気絶させられるわけではありません。

EFSA(欧州食品安全機関)は2012年の評価で、すべての試験において100%のニワトリを確実に気絶させられる電流条件は特定できなかったとしています。

その大きな理由の一つが、個体ごとの電気抵抗の違いです。

ニワトリの種類報告されている電気抵抗
ブロイラー約1,000〜2,600Ω
採卵鶏約1,900〜7,000Ω

同じ電圧をかけても、身体の電気抵抗が異なれば、実際に流れる電流量も変わります。そのため、ある個体には十分な電流が流れても、別の個体には気絶に必要な電流が流れない可能性があります。

さらに、気絶の成否には、次のような条件も影響します。

  • 電流の強さと周波数
  • 電流が流れる時間
  • ニワトリの体格
  • 脚と器具の接触状態
  • 羽毛の濡れ方
  • 頭部が水槽に十分入っているか
  • 処理ラインの速度

したがって、装置に一定の電圧や電流を設定するだけでは不十分です。実際に一羽一羽が意識を失っているかを確認する必要があります。

電気水浴方式が抱える構造的な問題

電気水浴方式は、大量のニワトリを連続的に処理できる一方、いくつかの構造的な問題があります。

まず、ニワトリは意識のある状態で逆さにつるされます。

鳥類は逆さの姿勢に慣れておらず、両脚を器具に固定される際に、逃れようとして強く羽ばたくことがあります。すでに脚のけが、骨折、関節障害などがある個体では、逆さにつるされること自体が強い痛みにつながる可能性があります。

また、設備の形状やニワトリの体格によっては、頭部が水槽に入る前に、翼や身体の一部が水に触れることがあります。

この場合、ニワトリは意識を失う前に、痛みを伴う電気刺激を受ける可能性があります。これは前通電と呼ばれる問題です。

反対に、小柄な個体や頭を持ち上げた個体では、頭部が水槽に十分入らず、気絶に必要な電流が流れないことがあります。

つまり、電気水浴方式には、多数を効率よく処理できる一方で、体格や電気抵抗の異なるすべての個体に、同じ装置で適切な電流を流すことが難しいという根本的な問題があります。

気絶できているかはどのように確認するのか

動物福祉の観点では、電気を流したかどうかではなく、実際にニワトリが意識を失っているかを確認することが重要です。

気絶が有効であるかを判断する際には、一般に次のような反応が確認されます。

  • 規則的な呼吸がない
  • 首や身体を起こそうとする反応がない
  • 目への刺激に反応しない
  • 自発的な瞬きがない
  • 発声がない
  • 姿勢を立て直そうとする反応がない

ただし、身体が動いているからといって、必ず意識が残っているとは限りません。

気絶後にも、反射やけいれんによって脚や翼が動くことがあります。そのため、動きの有無だけで判断するのではなく、呼吸、眼球反応、瞬き、姿勢反応などを組み合わせて確認する必要があります。

気絶が不十分な個体を発見した場合には、速やかに再度の気絶処置を行わなければなりません。

放血と死亡確認にも問題が残る

電気水浴スタニングの後、ニワトリは首の血管を切断され、放血によって死亡します。

しかし、首の切断位置がずれたり、血管が十分に切断されなかったりすると、放血が不十分になることがあります。また、気絶が浅かった場合には、放血中に意識を回復する可能性もあります。

放血後のニワトリは、羽を抜きやすくするため、高温の湯に浸す工程へ送られます。そのため、湯漬けの工程へ進む前に、ニワトリが確実に死亡していることを確認しなければなりません。

海外の食鳥処理場では、スタニング直後から放血中にかけて、ニワトリが確実に意識を失っているか、死亡する前に意識を回復していないかを確認します。さらに、放血後には、湯漬けや解体の工程へ進む前に死亡を確認します。

つまり、確認されるのは一度だけではありません。

  1. スタニング後の気絶確認
  2. 放血中の意識回復の確認
  3. 湯漬け前の死亡確認

という複数段階の監視が必要です。

一方、日本では、こうした確認工程が十分に実施されていない施設があると、動物保護団体から指摘されています。

NPO法人アニマルライツセンターの調査では、日本の食鳥処理場の約85%で、事前のスタニングが適切に行われていないと報告されています。ただし、これは動物保護団体による調査結果であり、日本全国のすべての施設を直接調査した公的統計ではない点には注意が必要です。

また、厚生労働省の「食肉検査等情報還元調査」では、放血が適切に行われず、食肉として廃棄された「放血不良」のニワトリが、2018年に約50万羽、2023年には約70万羽報告されています。

放血不良として記録されたすべての個体が、意識のあるまま湯漬け工程へ送られたことを意味するわけではありません。

放血不良には、首の切断位置のずれ、血管の切断不足、機械の調整不良など、複数の原因が含まれます。

しかし、公的統計において毎年多数の放血不良が報告されていることは、気絶、首の切断、放血、死亡確認という一連の工程に、改善の余地が残されていることを示しています。

【画像③:電気水浴方式で確認すべき4つのポイント】

  • 放血前に十分に気絶しているか
  • 首の血管が確実に切断されているか
  • 十分に放血できているか
  • 湯漬けの前に死亡しているか

電気水浴方式に代わるガス気絶法

電気水浴方式の代替として国際的に注目されているのが、**CAS(Controlled Atmosphere Stunning:ガス気絶法)**です。

CASでは、ニワトリを輸送用コンテナに入れたまま密閉設備へ搬入し、二酸化炭素などのガスを吸入させて意識を失わせます。その後、すでに意識を失った状態で処理ラインへ移し、放血を行います。

最大の利点は、ニワトリを意識のある状態で逆さづりにしなくてよいことです。

これにより、次のような負担を軽減できる可能性があります。

  • 逆さづりによる恐怖
  • 脚を器具へ固定する際の痛み
  • 羽ばたきによる骨折や脱臼
  • 生きたニワトリを作業者が直接扱う負担
  • 個体ごとの電気抵抗の違いによる気絶失敗

EUでは現在でも電気水浴方式が主流ですが、CASの導入は着実に進んでいます。ブロイラーの約19%がCASで処理され、約81%が電気水浴方式で処理されています。

日本でも徳島県の貞光食糧工業がCASを導入し、2020年にはアニマルウェルフェアアワード鶏部門を受賞しました。しかし、日本全体では導入施設はまだごく少数にとどまっています。

【画像④:電気水浴方式とCASの比較】

比較項目電気水浴方式CAS
意識のある状態での逆さづり必要不要
気絶方法頭部へ電流を流すガスを吸入させる
個体差の影響電気抵抗の影響を受けやすい比較的受けにくい
主な利点大量処理に適し既存設備が多い逆さづりや羽ばたきを減らせる
主な課題前通電・通電不足・逆さづりガス刺激・設備費

CASも完全に苦痛がない方法ではない

CASには多くの利点がありますが、「ガスなら苦痛がない」というわけではありません。

現在広く使用されている二酸化炭素(CO₂)は、鶏の呼吸器粘膜にある化学受容体を刺激します。そのため、高濃度のCO₂では、意識を失うまでの間に痛みや息苦しさ、不快感を感じる可能性があります。

研究では、CO₂濃度が40%を超えると、

  • 頭を振る
  • 口を開けて呼吸する
  • 激しく羽ばたく
  • ガスから逃げようとする

などの忌避反応が報告されています。

そのため、二酸化炭素濃度を徐々に上げる方式が採用されることもあります。しかし、濃度をゆっくり上げすぎると、意識を保っている時間が長くなる可能性があります。

CASでは、

  • 強い刺激をできるだけ避けること
  • できるだけ短時間で意識を失わせること

という二つを両立させる必要があります。

二酸化炭素以外の方法も研究されている

CO₂による刺激を軽減するため、二酸化炭素と窒素を組み合わせた混合ガスや、窒素・アルゴンなどの不活性ガスだけを用いる方法も研究されています。

不活性ガスはCO₂ほど呼吸器を直接刺激しませんが、酸素濃度が低下して意識を失うまでの間に、呼吸反応や不安を示す可能性があります。

また、ガスを使用せず、気圧を徐々に下げることで酸素不足を引き起こし、意識を失わせる**LAPS(Low Atmospheric Pressure Stunning:低気圧法)**も実用化されています。

LAPSは2018年にEUで承認され、北米でも商業利用が始まっています。2020年の研究では、CO₂方式と比較して頭振りやあえぎなどが少なく、動物福祉上より優れている可能性が示されました。

しかし、LAPSを含め、現時点で完全に苦痛のない方法が確立されているわけではありません。

重要なのは、どの方式を採用するかだけではなく、

  • ニワトリが速やかに意識を失っているか
  • 放血中に意識を回復していないか
  • 死亡確認が適切に行われているか

を継続的に確認することです。

日本では改善が事業者の自主判断に委ねられている

今後、日本の食鳥処理場では、大きく三つの選択肢があります。

  • 現在の電気水浴方式の精度を高める
  • CASへ移行する
  • LAPSなど新しい方式を導入する

いずれにも設備投資、処理能力、維持管理費、作業者の安全性、食肉品質などの課題があります。

特にCASやLAPSでは既存設備を大きく更新する必要があり、多額の設備投資が必要になります。

欧州では、気絶処理や意識消失確認について法令で基準が定められています。

一方、日本では、どの方式を採用し、どこまで設備を更新するかについて、事業者の自主的な判断に委ねられている部分が少なくありません。

そのため、今後は事業者の努力だけでなく、

  • 気絶・死亡確認に関する具体的な基準の整備
  • 設備更新への公的支援
  • 作業者教育の充実

なども重要になると考えられます。


方法② 採卵を終えたニワトリの処理──「卵を産み終えた後」はどうなるのか

採卵鶏は一生卵を産み続けるわけではありません。

一般的には、生後18〜20週頃から産卵を始め、その後約1年間は高い産卵率を維持します。しかし、加齢とともに産卵率や卵殻品質は低下するため、多くの養鶏場では80〜100週齢頃に更新されます。

このように産卵を終えて農場から出荷される採卵鶏を**廃鶏(はいけい)**と呼びます。

日本では毎年約7,800万羽が廃鶏となり、その多くは食鳥処理場で処理された後、加工食品、スープ、だし原料、ペットフードなどに利用されています。

廃鶏も基本的な処理方法はブロイラーと共通

廃鶏も基本的な処理工程はブロイラーとほぼ同じです。

【画像⑤:採卵鶏(廃鶏)の処理工程】

農場から出荷

食鳥処理場へ搬入

生体懸鳥(逆さづり)

スタニング(気絶処理)

放血

湯漬け・脱羽

加工・利用

したがって、スタニング方法や死亡確認など、動物福祉上の課題も基本的にはブロイラーと共通しています。

廃鶏特有の課題

一方で、廃鶏にはブロイラーとは異なる問題もあります。

長期間産卵を続けた採卵鶏では、骨粗しょう症、骨折、関節障害などが起こりやすいことが知られています。

そのため、生きたまま逆さづりにする電気水浴方式では、脚への負担や痛みがブロイラー以上に大きくなる可能性があります。

また、羽毛や体格のばらつきも大きく、電流の流れ方にも個体差が生じやすいと考えられています。

さらに、日本では廃鶏を処理できる施設が地域によって限られているため、

  • 長距離輸送
  • 処理待ち時間の延長
  • 農場での滞留

などが発生する場合があります。

輸送時間が長くなるほど、疲労、脱水、暑熱・寒冷ストレスなど、動物福祉上の問題も大きくなります。

そのため今後は、

  • 処理施設の地域偏在の改善
  • 輸送時間の短縮
  • 係留時間の短縮

なども重要な課題と考えられています。

ブロイラーに比べると廃鶏の処理は社会で注目される機会が少ないものの、日本では毎年約7,800万羽が処理されており、その規模は決して小さくありません。

食肉用ブロイラーだけでなく、産卵を終えた採卵鶏についても、人道的な取り扱いをどのように実現するかが今後の重要な課題となっています。

方法③ 雄ヒナの殺処分──世界で変わり始めた「生まれた日に処分する」という仕組み

採卵鶏では、ヒナは孵化直後に雌雄判定されます。

雌は採卵用として育てられますが、雄は卵を産まず、肉用品種のように効率よく成長しません。そのため、採卵産業では経済的価値が低いとされ、多くの雄ヒナが生後1日以内に殺処分されています。

日本では年間約1.1〜1.3億羽、世界全体では年間約70億羽の雄ヒナが処分されていると推計されています。

ただし、日本には雄ヒナ殺処分数を直接集計した公的な全国統計はありません。年間羽数は、採卵用雌ヒナの出荷数などをもとに推計された値です。

日本では二酸化炭素による処理が中心

日本では、雄ヒナの処分には二酸化炭素(CO₂)によるガス処理が主に用いられているとされています。

米国獣医師会(AVMA)の『Guidelines for the Euthanasia of Animals』では、1日齢ヒナに用いられる方法として、次のような処置が挙げられています。

  • 二酸化炭素などのガス吸入
  • 頸椎脱臼
  • 断頭
  • 機械による即時破砕(maceration)

機械による即時破砕は強い抵抗感を持たれやすい方法ですが、装置が適切に作動し、瞬時に死亡させられる場合には、長時間の窒息や圧死よりも苦痛が短いと評価されることがあります。

一方、ガス処理も、方法を問わず人道的になるわけではありません。

孵化直後のヒナは、成鳥よりも低酸素状態への耐性が高いとされています。そのため、意識消失と死亡を確実にするには、十分なCO₂濃度と処理時間が必要です。

また、一度に多くのヒナを容器へ収容すると、

  • 下にいる個体が押しつぶされる
  • ガス濃度が均一にならない
  • 意識を失うまでに時間がかかる
  • 処理後も生存個体が残る

といった問題が生じる可能性があります。

一部では、袋や容器へ多数のヒナを投入した結果、圧死、窒息、低体温、高温などによって死亡したとする報告もあります。ただし、日本国内でどの方法がどの程度使われているかについて、全国的な実態調査は行われていません。

世界では「孵化後に殺さない」方向へ進んでいる

近年、欧州を中心に、雄ヒナを孵化後に殺処分する仕組みを禁止・縮小する動きが広がっています。

国・地域主な動き
ドイツ2022年から雄ヒナ殺処分を禁止
フランス2022年から原則禁止し、性別判定装置の導入を支援
ルクセンブルク禁止済み
オーストリア殺処分を制限
イタリア段階的な禁止方針を決定
スイス2020年に粉砕処分を禁止
オランダ殺処分削減と代替技術の導入を推進
ノルウェー主要孵化場が自主的に代替技術を導入

この流れを支えているのが、**in-ovo sexing(卵内性別判定)**です。

in-ovo sexingとは

in-ovo sexingは、ヒナが孵化する前に、卵の内部を調べて雌雄を判定する技術です。

雄と判定された卵は孵化させず、飼料原料などへ利用します。これにより、生きた雄ヒナを孵化後に殺処分する必要がなくなります。

現在は、複数の判定方式が実用化・開発されています。

  • 卵内の液体を採取し、ホルモンやDNAを調べる方法
  • 光を当て、羽色や血管などの違いを画像解析する方法
  • MRIを用いて卵内部を解析する方法
  • 生体マーカーを利用する方法
  • AIとハイパースペクトル画像を組み合わせる方法

代表的な技術として、次のようなものがあります。

技術・企業主な方式
Seleggt卵内液を採取し、ホルモンを解析
Cheggy光学画像から羽色の違いを解析
Ella生体マーカーを利用
Genus FocusMRIによる内部解析
HyperEyeAIとハイパースペクトル画像を利用

方式は異なりますが、目的はいずれも、孵化前に雄を判別し、生後の殺処分を回避することです。

ドイツでは商業利用が拡大

ドイツでは、2022年に雄ヒナの殺処分が法律で禁止されました。

その後、採卵産業では主に二つの代替策が採られています。

一つは、in-ovo sexingによって孵化前に性別を判定する方法です。

もう一つは、採卵系統の雄を殺さずに育て、食肉として利用する兄弟雄鶏飼育です。

採卵系統の雄は肉用ブロイラーほど早く成長しないため、飼育期間が長くなり、飼料や施設にかかる費用も増えます。それでも、孵化直後の殺処分を避ける方法として採用されています。

このように、欧州の一部では、雄ヒナ殺処分を減らす技術は研究段階を越え、すでに商業利用の段階へ進んでいます。

日本では商業導入に至っていない

一方、日本では、in-ovo sexingの商業的な導入はまだ本格化していません。

国内でも大学や研究機関によって卵内性別判定技術の研究は進められていますが、欧州のように大規模な孵化場で利用される段階には至っていません。

また、雄ヒナ殺処分を禁止する法規制もありません。

導入が進まない背景には、

  • 判定装置の導入費
  • 1時間当たりの処理能力
  • 判定精度
  • 孵卵工程への組み込み
  • 卵1個当たりの生産費増加
  • 国内の孵化場数や流通構造

など、複数の課題があります。

そのため、日本で普及させるには、技術開発だけでなく、設備導入への支援や、殺処分を伴わない卵に対する消費者の理解も必要です。

in-ovo sexingにも課題は残る

in-ovo sexingは、孵化した雄ヒナを殺処分しないという点では大きな改善です。

ただし、「雄と判定された胚をいつ処分するか」という新たな問題が生じます。

論点となるのは、鶏の胚が発生のどの段階から痛みや不快感を経験できるのかという点です。

神経系は発生の途中から徐々に形成されますが、痛みを主観的に経験できる時期については、研究者の間でも議論があります。

そのため、各国では、できるだけ早い段階で性別判定を終えることが求められています。

ただし、判定時期を早めるほど、

  • 雌雄差が小さく判定が難しい
  • 精度が低下しやすい
  • 装置や検査技術が高額になる
  • 大量処理が難しくなる

という技術的な課題も大きくなります。

in-ovo sexingは雄ヒナ殺処分を減らす有力な技術ですが、導入しただけですべての動物福祉問題が解決するわけではありません。

重要なのは、

  • できるだけ早期に判定すること
  • 高い精度を確保すること
  • 誤判定されたヒナの処理方法を整備すること
  • 生産費の上昇を誰が負担するかを議論すること

です。

雄ヒナの問題は、単に処分方法を変更するだけでなく、採卵産業そのものの仕組みをどのように変えるかという問題でもあります。

方法④ 鳥インフルエンザ発生時の殺処分──感染拡大を防ぐための行政措置

報道で「殺処分」という言葉を耳にする機会が最も多いのが、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生時です。

これまで紹介した食鳥処理、廃鶏、雄ヒナの処分とは異なり、鳥インフルエンザ発生時の殺処分は、感染拡大を防ぐための防疫措置として実施されます。

目的は食肉生産ではなく、感染した可能性のある家きんを農場から速やかに排除し、周辺農場への感染拡大を防ぐことです。

法律に基づいて実施される

日本では、家畜伝染病予防法に基づき、高病原性鳥インフルエンザが確認された場合、発生農場で飼育されている家きんは原則として殺処分の対象となります。

感染が確認された個体だけを選んで処分するのではなく、同じ農場で飼育されている個体も含めて処分します。

これは、症状が現れていない個体や、検査ではまだ感染を確認できない個体も、すでにウイルスに感染している可能性があるためです。

実施主体は都道府県です。

しかし、大規模農場では数十万羽から100万羽を超える家きんを短期間で処分しなければならないため、自治体職員や獣医師だけでは人員が足りない場合があります。

その場合、自衛隊へ災害派遣が要請されることがあります。

実際に大規模な発生では、自治体職員、家畜保健衛生所の獣医師、民間事業者、自衛隊員など、多数の人員が殺処分、運搬、埋却、消毒などの作業に従事します。

殺処分はどのように行われるのか

日本で多く採用されているのは、二酸化炭素(CO₂)を用いたガス処理です。

施設の構造や飼育形態によって、具体的な方法は異なります。

代表的な方法には、次のようなものがあります。

  • 鶏を袋や容器へ収容し、CO₂を注入する
  • 移動式コンテナへ収容し、密閉してCO₂を注入する
  • 大型の密閉コンテナ内で処理する
  • 鶏舎内へガスを送り込み、建物内で処理する

採卵鶏のケージ飼育では、一羽ずつ捕獲して容器へ移す必要がある場合があります。

この作業には多くの人手が必要で、捕獲時の恐怖、圧迫、骨折、脱臼などが生じる可能性があります。

また、容器へ一度に多くの鶏を投入すると、下にいる個体が押しつぶされたり、十分なガスにさらされる前に圧死したりするおそれがあります。

ガス処理を人道的に行うには、

  • 収容羽数を過剰にしない
  • 十分なCO₂濃度を確保する
  • 必要な処理時間を守る
  • 処理後に生存個体がいないか確認する
  • 生存個体には速やかに追加処置を行う

ことが必要です。

【画像⑥:鳥インフルエンザ発生時の殺処分の流れ】

発生確認

防疫区域の設定

農場内の家きんを殺処分

死体や汚染物を埋却・焼却

鶏舎・器具・車両などを消毒

周辺農場の監視

発生年によって処分羽数は大きく変わる

鳥インフルエンザによる殺処分羽数は、流行状況によって大きく変動します。

発生が少ない年には数十万羽規模にとどまる一方、大規模流行では1,000万羽を超えることもあります。

年度殺処分羽数
令和2年度約987万羽
令和3年度約189万羽
令和4年度約1,771万羽
令和5年度約85.6万羽
令和6年度シーズン中に約811万羽超

特に令和4年度は、国内で過去最大規模の流行となりました。

採卵鶏農場で大規模な発生が相次いだことで、鶏卵価格や供給にも影響が及びました。

農家には補償制度がある

鳥インフルエンザによって飼育中の鶏をすべて殺処分された場合、農家は大きな経済的損失を受けます。

そのため、家畜伝染病予防法には、殺処分された家きんに対する手当金制度が設けられています。

基本的な手当金は、

  • 患畜:評価額の3分の1
  • 疑似患畜:評価額の5分の4

です。

さらに、高病原性鳥インフルエンザなどでは特別手当金制度があり、適切な飼養衛生管理が行われていた場合には、通常の手当金と合わせて評価額に近い補償を受けられる仕組みがあります。

このほかにも、

  • 家畜疾病経営維持資金
  • 農林漁業セーフティネット資金
  • 雇用調整助成金

など、経営再建や雇用維持を支援する制度があります。

ただし、補償は無条件ではありません。

飼養衛生管理基準への重大な違反や、防疫措置への不適切な対応が確認された場合には、手当金が減額されたり、不交付となったりすることがあります。

つまり、補償制度は、防疫管理を適切に行っていた農家の損失を支える仕組みとして運用されています。

海外では別の大量処分方法も議論されている

鳥インフルエンザの大規模発生では、短時間で非常に多くの家きんを処分しなければならないため、世界各国でさまざまな方法が検討されてきました。

その中でも、特に米国で議論となっているのが、**VSD+(Ventilation Shutdown Plus:換気停止併用法)**です。

VSD+は、鶏舎を密閉して換気を停止し、さらに加熱、蒸気、二酸化炭素などを併用することで、鶏舎内の温度や湿度、二酸化炭素濃度を上昇させ、家きんを死亡させる方法です。

最大の特徴は、鶏を一羽ずつ捕獲して容器へ移さず、鶏舎内にいる状態で多数を処分できることです。

そのため、数十万羽規模の大規模農場では、作業者の人数や感染拡大リスクを抑えながら、短時間で処分を進められる可能性があります。

一方で、換気を止めて鶏舎内の環境を悪化させる方法であるため、意識を失うまでに長い時間を要し、熱、呼吸困難、窒息などによる強い苦痛を生じさせる可能性があります。

米国獣医師会(AVMA)は、VSD+を通常の安楽死方法とは位置づけておらず、他の方法を実施できない極めて特殊な状況に限って検討される方法としています。

実際に、95%の個体が死亡するまでに平均約2時間を要したとする報告もあります。

また、獣医師を対象とした調査では、VSD+を倫理的・人道的な方法とは考えないと回答した人が大多数を占めました。

WOAH(国際獣疫事務局)も、換気停止だけに依存する方法を推奨していません。

2022〜2023年の米国では、高病原性鳥インフルエンザ対策として約1億6,600万羽が殺処分され、その約73%でVSD+が単独または他の方法と併用されたと報告されています。

一方、日本では現在、VSD+は一般的な処分方法として採用されておらず、主に二酸化炭素を用いたガス処理が実施されています。

防疫と動物福祉をどのように両立するか

鳥インフルエンザ発生時の殺処分では、理想的な安楽死と、防疫上必要な処理速度を完全に両立させることは容易ではありません。

感染拡大を防ぐためには、発生農場の家きんをできるだけ短期間で処分する必要があります。

しかし、処理を急ぐほど、

  • 鶏の捕獲が乱暴になる
  • 容器へ過剰に収容される
  • ガス濃度や処理時間の管理が不十分になる
  • 死亡確認が省略される
  • 作業者の疲労や事故が増える

といった問題が生じる可能性があります。

そのため、大規模発生に備えて平常時から、

  • 農場規模に応じた処分計画を作成する
  • 十分な数の処理容器やガス設備を確保する
  • 自治体・民間事業者・自衛隊の役割を明確にする
  • 作業者への訓練を行う
  • 処理後の死亡確認方法を標準化する
  • 動物福祉に関する専門家を現場へ配置する

ことが重要です。

また、殺処分を行う人への影響も見落としてはなりません。

自治体職員、獣医師、自衛隊員、農場関係者などは、短期間に何万羽、何十万羽もの動物を処分する作業に従事します。

現場では、

  • 強い罪悪感
  • 無力感
  • 睡眠障害
  • フラッシュバック
  • 抑うつ
  • PTSDに似た症状

などが報告されています。

特に、自ら長年育ててきた鶏をすべて失う農家の精神的負担は非常に大きいものです。

鳥インフルエンザ対策では、感染症対策、畜産経営、食料供給、動物福祉だけでなく、作業に携わる人々の心身の健康も含めて考える必要があります。

この問題は、「殺処分は残酷か」という単純な問いだけでは整理できません。

感染を封じ込める必要性を認めたうえで、避けられない処分の苦痛をどこまで減らせるかが問われています。

方法⑤ 養鶏場で行われる日常的な安楽死

ここまで、食肉用ブロイラー、採卵を終えた廃鶏、雄ヒナ、鳥インフルエンザ発生時という4つの場面を見てきました。

しかし、実際の養鶏現場では、もう一つ見落とされがちな処分があります。

それが、病気やけがをした個体に対して、農場内で日常的に行われる安楽死です。

回復が見込めない鶏は早期の安楽死が必要

養鶏場では、病気やけがによって回復が見込めない鶏が発生することがあります。

例えば、次のような状態です。

  • 歩行できない
  • 重度の骨折や脱臼がある
  • 強い呼吸困難がある
  • 著しく衰弱している
  • 卵詰まりが重症化している
  • 重度の奇形がある
  • 他の鶏につつかれて大きな外傷を負っている
  • 餌や水を自力で摂取できない

このような個体を治療せずに放置すると、死亡するまで長時間苦しむ可能性があります。

そのため、回復の見込みがなく、苦痛が続いている場合には、できるだけ早く安楽死を実施することが動物福祉上重要です。

安楽死の目的は、不要な個体を処分することではありません。

すでに強い苦痛を受けており、回復が見込めない個体について、その苦痛をできるだけ短時間で終わらせることです。

日本では安楽死を実施していない農場もある

農林水産省が2024年に実施した調査では、採卵養鶏場の34.8%が、日常的な安楽死を実施していないと回答しました。

安楽死を実施しない理由として最も多かったのは、「いつの間にか死亡していた」という回答でした。

この結果からは、病気やけがをした個体を早期に発見し、状態を評価する体制が十分に整っていない農場があることがうかがえます。

採卵農場では、一戸当たり数万羽から十数万羽を少人数で管理している例もあります。

そのため、すべての個体を毎日細かく観察し、歩行異常や衰弱を早期に発見することは簡単ではありません。

特にケージ飼育では、ケージの奥や下段にいる個体の異常を見つけにくい場合があります。

また、安楽死を実施するには、

  • 苦痛の程度を判断する知識
  • 適切な処置方法に関する技術
  • 実施する心理的負担への対応
  • 処置後に死亡を確認する手順

が必要です。

方法が分からない、または精神的に実施しづらいという理由から、処置が遅れることも考えられます。

農場内ではどのような方法が用いられるのか

農場内での安楽死方法は、鶏の大きさ、年齢、羽数、作業者の技術などによって異なります。

代表的な方法としては、

  • 頸椎脱臼
  • 専用器具による頸部の切断や損傷
  • 頭部への打撃
  • 小型ガス処理装置
  • 獣医師による薬剤投与

などがあります。

いずれの方法でも重要なのは、正しく実施すれば短時間で意識を失わせられることと、処置後に確実な死亡確認を行うことです。

頸椎脱臼は、特別な大型設備を必要とせず農場内で実施できる方法ですが、正確な技術が必要です。

不適切に行われると、脊髄や血管が十分に損傷せず、意識が残ったまま苦痛を与えるおそれがあります。

頭部への打撃も、十分な強さと正確な位置が必要です。

一度で意識を失わせられなければ、かえって苦痛を増やします。

小型のガス処理装置は、複数羽を処置でき、作業者が一羽ずつ身体的な処置を行わずに済む利点があります。

英国のHumane Slaughter Association(HSA)などは、農場内で使用できる小型のガス装置や安楽死方法に関する情報を提供しています。

ただし、装置の価格、ガス管理、処理時間、死亡確認などの課題があり、日本ではまだ広く普及していません。

早期発見を助ける技術も研究されている

農場内の安楽死を適切に行うためには、苦痛を抱えた個体を早期に見つける必要があります。

近年は、カメラやAIを利用して、

  • 動かなくなった鶏
  • 歩行異常のある鶏
  • 餌や水を摂取していない鶏
  • 群れから離れている鶏
  • すでに死亡した鶏

を自動的に検知する技術が研究されています。

このような監視技術が普及すれば、少人数で多数を管理する農場でも、異常個体を早く発見できる可能性があります。

ただし、装置が異常を検知しても、最終的に鶏の状態を確認し、治療するか安楽死させるかを判断するのは人です。

そのため、技術導入だけでなく、農場従業者への教育や、安楽死を適切に実施できる体制づくりが欠かせません。

AVMA、EFSA、WOAHなどの国際機関は、回復の見込みがない動物について、不要な苦痛を長引かせず、可能な限り速やかに安楽死を行うことが望ましいという考え方を示しています。

養鶏場内での安楽死は目立ちにくい問題ですが、毎日発生する可能性があるため、動物福祉を考えるうえで重要な課題です。

日本と海外では何が違うのか

ここまで紹介した内容を整理すると、日本と欧州を中心とした海外では、動物福祉への対応に違いがあります。

項目日本海外の主な動向
食鳥処理電気水浴方式が主流CASの導入が進む
雄ヒナ殺処分禁止規制なしドイツ・フランスなどで禁止・縮小
処理場の監視全国一律のCCTV義務なし英国ではCCTV設置を義務化
採卵鶏の飼育ケージ飼育が多数ケージフリー化が進行
気絶・死亡確認具体的な法的基準が限定的EUでは詳細な基準を設定
農場内の安楽死実施していない農場もある指針や研修制度の整備が進む

英国では食鳥処理場のCCTVが義務化

英国では、2018年から、と畜場や食鳥処理場へのCCTV設置が義務化されました。

撮影対象には、

  • 動物の荷下ろし
  • 係留
  • 取り扱い
  • スタニング
  • 放血

など、動物が扱われる主要な工程が含まれます。

映像は一定期間保存され、監督機関が必要に応じて確認できる仕組みです。

CCTVを設置するだけですべての問題が解決するわけではありませんが、

  • 不適切な取り扱いの抑止
  • 問題発生時の原因確認
  • 従業員教育
  • 処理工程の改善

に役立つと考えられています。

日本では、事業者が自主的にカメラを設置している例はありますが、全国一律の法的義務はありません。

気絶と死亡確認の基準にも差がある

EUでは、動物を放血する前に意識を失わせることや、処理中に意識が回復していないか確認することについて、法令で具体的な基準が定められています。

また、一定規模以上の施設では、動物福祉責任者を置き、処理方法や従業員教育を管理することが求められます。

一方、日本にも食鳥処理や動物福祉に関する指針はありますが、気絶の有効性や死亡確認の方法について、欧州ほど詳細な法的義務が全国一律に整備されているわけではありません。

そのため、実際の対応は施設ごとの差が大きくなりやすい状況です。

採卵鶏の飼育環境にも違いがある

日本では、採卵鶏の多くがバタリーケージなどのケージ内で飼育されています。

一方、EUでは従来型のバタリーケージが禁止され、平飼いや放牧、改良型ケージなどへの移行が進められてきました。

飼育環境は殺処分方法そのものではありません。

しかし、骨の強さ、歩行能力、羽毛の状態、けがの有無などは、出荷や処理の際の苦痛にも影響します。

例えば、長期間運動が制限され、骨が弱くなった採卵鶏は、捕獲や輸送、逆さづりの際に骨折しやすくなる可能性があります。

そのため、動物福祉を考える際には、最後の殺処分工程だけでなく、生涯を通した飼育環境も含めて評価する必要があります。

国際評価では日本の課題が指摘されている

世界動物保護協会(World Animal Protection)が公表したAnimal Protection Index 2020では、日本の動物保護制度は総合的に低い評価を受け、畜産動物福祉についても課題が指摘されました。

ただし、この評価は特定の指標に基づく国際比較であり、個々の農場や事業者の取り組みを直接評価したものではありません。

日本国内にも、動物福祉に配慮した飼育や処理を自主的に進めている農場や企業があります。

問題は、先進的な取り組みが一部にとどまり、業界全体の最低基準として十分に普及していないことです。

日本と海外の差は、単に技術力の違いではありません。

法規制、設備投資への支援、消費者の関心、流通企業の調達基準、事業者教育など、社会全体の仕組みの違いによって生じています。

動物福祉のために改善できること

ニワトリの殺処分について考えるとき、

「すべての殺処分を直ちになくすべきだ」

という考えと、

「畜産に必要なのだから現状のままでよい」

という考えに分かれがちです。

しかし、現実的な改善策は、この二つの間にあります。

重要なのは、

  • 避けられない処分では、できるだけ苦痛を減らす
  • 代替できる処分は、技術や制度によって減らす
  • 処分に至るまでの飼育環境も改善する
  • 処理が適切に行われているかを監視する

ことです。

食鳥処理場で改善できること

食鳥処理場では、次のような改善が考えられます。

  • CASなど、意識のある状態での逆さづりを減らせる方式の導入
  • 電気水浴スタニングの電流・周波数・処理時間の標準化
  • 前通電や通電不足を防ぐ設備調整
  • 気絶後の意識確認の徹底
  • 放血中の意識回復の監視
  • 湯漬け前の死亡確認
  • CCTVによる工程監視
  • 動物福祉責任者の配置
  • 放血不良などの指標を継続的に記録し改善する仕組み

CASやLAPSなどの設備を一度に全国へ導入することは、費用面から現実的でない可能性があります。

その場合でも、現在使われている電気水浴方式の精度を高め、確認工程を徹底することで、苦痛を減らせる余地があります。

採卵産業で改善できること

採卵産業では、次のような対応が考えられます。

  • in-ovo sexingの研究・導入支援
  • 雄ヒナを育てる兄弟雄鶏飼育の検討
  • 卵肉兼用種の活用
  • 廃鶏を処理できる施設の地域偏在の改善
  • 廃鶏の長距離輸送の短縮
  • 捕獲時の骨折を減らす作業方法の標準化
  • ケージ依存を減らし、骨の健康を改善する飼育環境の整備

雄ヒナ殺処分を減らすには、生産者だけに費用を負担させるのではなく、設備導入への支援や、殺処分を伴わない卵の価値を消費者へ伝える仕組みも必要です。

養鶏場内で改善できること

農場内の日常的な安楽死については、次のような改善が必要です。

  • 回復可能性を判断する基準の作成
  • 異常個体を早期に発見する巡回体制
  • 従業員への安楽死技術の研修
  • 小型ガス装置など実施しやすい設備の導入
  • 処置後の死亡確認の標準化
  • AIカメラなどを用いた異常個体の自動検知
  • 安楽死を実施する従業員への心理的支援

苦痛を受けた個体を放置せず、早期に発見して適切に処置することは、設備投資だけでなく、現場の教育と人員配置にも関係します。

鳥インフルエンザ対策で改善できること

鳥インフルエンザ対策では、処分方法の改善だけでなく、そもそも大規模な殺処分を減らすための予防策が重要です。

具体的には、

  • 農場へのウイルス侵入防止
  • 野鳥や小動物との接触防止
  • 車両・器具・人の消毒
  • 発生時の迅速な検査
  • ワクチン利用に関する制度検討
  • 農場規模に応じた事前の処分計画
  • 不活性ガスなど新たな大量処理技術の研究
  • 作業者への防護具・休憩・交代要員の確保
  • 自治体職員、自衛隊員、農家へのメンタルヘルス支援

などが挙げられます。

また、日本で現在一般的に採用されていないVSD+のような方法については、今後も安易に導入せず、動物福祉上の影響を慎重に評価する必要があります。

まとめ

ニワトリの「殺処分」には、一つの目的や方法だけがあるわけではありません。

本記事では、次の5つの場面を区別して解説しました。

  1. 食肉用ブロイラーの処理
  2. 採卵を終えた廃鶏の処理
  3. 雄ヒナの殺処分
  4. 鳥インフルエンザ発生時の防疫処分
  5. 養鶏場内で病気やけがをした鶏の安楽死

それぞれ目的や背景は異なりますが、共通する課題は、ニワトリが意識を保ったまま長時間苦しまないようにすることです。

食鳥処理では、電気水浴スタニングの精度向上や、CAS・LAPSへの移行が検討されています。

雄ヒナの問題では、in-ovo sexingによって、孵化後の殺処分そのものを避ける技術が商業化されています。

鳥インフルエンザ対策では、感染拡大を防ぐための迅速な処分が必要である一方、処理方法と作業者への心理的負担を改善する必要があります。

また、農場内で病気やけがをした個体を放置せず、早期に安楽死させる体制も重要です。

完全に苦痛のない処分方法は、現時点では確立されていません。

だからこそ、

  • 科学的根拠に基づいて方法を選ぶ
  • 意識消失と死亡を確実に確認する
  • 代替技術を導入する
  • 処理工程を監視する
  • 飼育から処分まで一貫して改善する

という段階的な取り組みが必要です。

日本でも、畜産業を維持しながら動物福祉を向上させるために、海外の制度や技術をそのまま導入するのではなく、国内の生産構造に合わせた基準づくり、設備支援、教育、情報公開を進めることが求められています。

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