動物実験では、マウスやラット、ウサギ、イヌ、サル、魚類など、さまざまな動物が使われています。
研究現場では一般的な手法であっても、一般の人が「実際に何が行われているのか」を知る機会は多くありません。
この記事では、動物実験で行われてきた代表的な例を、動物ごとに整理します。どの動物に、何を、何のために行っているのか。そして、どの分野では代替法が進み、どの分野ではまだ動物実験に依存しているのかを見ていきます。
- 動物実験では、どれくらいの動物が使われているのか
- まず全体像:どの動物に、どんな実験が行われるのか
- マウス・ラットに行われる実験
- 毒性試験:物質が体に有害かどうかを調べる
- 行動試験:脳・神経・記憶・不安を調べる
- 神経科学研究:脳の働きを直接調べる実験
- ウサギに行われる実験
- 皮膚刺激性・アレルギー反応を調べる実験
- イヌに行われる実験
- サルに行われる実験
- 魚類に行われる実験
- 実験後、動物はどうなるのか
- 動物実験は苦痛の程度でも分類される
- 大学の授業でも動物が使われることがある
- 化粧品分野では動物実験は変わりつつある
- 動物実験を減らすための代替法
- よくある質問
- まとめ:動物実験は「何を、何のために行っているのか」を分けて見る必要がある
動物実験では、どれくらいの動物が使われているのか
動物実験には、世界全体で年間数千万匹規模の動物が使われています。
欧州委員会は、EU加盟国とノルウェーから提出された動物実験統計を公開しており、動物が科学目的でどのように使われているかを把握できる仕組みを整えています。EU・ノルウェー全体では、年間で約1,000万匹ほどの動物が科学目的に使われています。
イギリスだけを見ても、政府機関であるHome Officeの公式統計によると、2023年に約268万件の動物を用いた科学的な実験・処置が報告されています。ただし、これは「動物の数」そのものではなく、「動物に対して行われた実験・処置の件数」です。同じ動物が複数回使われる場合もあるため、実験・処置の件数と動物数は完全には一致しません。
動物実験は各国でルール化された環境下で行われ、実験計画の審査、飼育環境、麻酔や鎮痛、安楽死の方法、苦痛の程度に応じた分類が定められています。EUでは、動物を用いる研究について、3Rs、つまり代替・削減・苦痛軽減の原則に基づいて実施することが重視されています。
ただし、どこまで詳しい情報が公開されるかは国によって差があります。日本にも実験動物の管理基準や研究機関ごとの審査制度はありますが、EUやイギリスのように、動物種別・苦痛度別の全国統計が広く公開されておらず、法的な拘束力もありません。そのため、日本の動物実験の実態は、一般の人から見えにくい部分があります。
まず全体像:どの動物に、どんな実験が行われるのか
| 動物 | 主な実験・用途 | 何を調べるためか |
|---|---|---|
| マウス・ラット | 疾患モデル、毒性評価、薬効評価、行動試験、遺伝子改変研究 | 病気の仕組み、薬の効果、物質が体に有害かどうか、遺伝子や臓器機能の解明 |
| ウサギ | 眼刺激性試験、皮膚刺激性試験、免疫反応を調べる実験、発熱性試験 | 目や皮膚への刺激、免疫反応、安全性評価 |
| モルモット・マウス | 皮膚感作性試験、アレルギー反応の評価 | かぶれ、アレルギー、免疫反応 |
| イヌ | 医薬品の安全性試験、薬物動態、循環器評価、一部の獣医学研究 | 薬の安全性、心臓・血液・臓器への影響、治療法の検討 |
| サル | 神経科学、感染症、ワクチン、認知研究、薬物動態 | 脳、認知、免疫、人に近い生体反応 |
| 魚類 | 発生研究、遺伝子機能、環境毒性、薬剤スクリーニング | 体が作られる仕組み、化学物質の影響、薬剤候補の評価、環境管理への応用 |
以下に詳しく説明します
マウス・ラットに行われる実験
動物実験で最も多く使われるのは、マウスやラットです。
マウスやラットが多く使われる理由は、体が小さく、飼育しやすく、繁殖が早く、遺伝子を操作した系統が多く作られているからです。医学、薬学、栄養学、毒性学、分子生物学、神経科学など、非常に広い分野で使われています。
疾患モデル:病態を再現して病気の解明につなげる
マウスやラットでは、人の病気に近い状態を人工的に作り出す「疾患モデル」が使われます。
たとえば、医学研究のために糖尿病を発症させたマウスや、腫瘍を移植したマウスが作られます。こうしたモデルを使うことで、病気がどのように進むのか、どの臓器や細胞が関わるのか、薬や栄養成分が効くのかを調べます。
ただし、これらは動物に負担を与える実験でもあります。糖尿病、腫瘍、脳梗塞、心筋梗塞、敗血症などを再現するモデルは、中等度から重度の苦痛に分類されやすい例です。
妊娠マウスを用いて胎児発生や母体の栄養状態の影響を調べる研究、運動能力を測定して筋肉や神経の働きを調べる研究、特定の遺伝子を欠損させたマウスを用いて分子生物学的な知見を蓄積する研究など生命科学研究全体の基盤として広く使われている動物です。
毒性試験:物質が体に有害かどうかを調べる
マウスやラットは、毒性試験にも使われます。
毒性試験とは、ある物質を体内に入れたとき、どの量で、どの臓器に、どのような悪影響が出るのかを調べる試験です。
急性毒性試験では、比較的短期間に物質を投与し、死亡、体重変化、行動異常、けいれん、呼吸状態、臓器の変化などを観察します。従来は、実験動物の半数が死亡すると推定される量を示す「LD50(半数致死量)」が重視されてきました。
LD50試験は、物質の危険性を数値化する方法として使われてきましたが、死亡を指標にするため、動物福祉の観点から強い批判を受けてきました。
そのため現在では、従来型のLD50試験は多くの分野で見直されています。国際的な試験方法を定めるOECDでも、かつて使われていた急性経口毒性試験のガイドラインは2002年に廃止され、より少ない動物数で毒性を推定する方法へ移行しています。
現在は、細胞試験、既存データ、コンピュータ予測などを組み合わせ、できるだけ動物数や苦痛を減らす方向に変わっています。
行動試験:脳・神経・記憶・不安を調べる
マウスやラットは、行動試験にも使われます。
行動試験とは、動物の動きを観察して、脳、神経、筋肉、記憶、学習、不安、ストレス反応などを評価する実験です。
たとえば、水迷路試験では、不透明な水を張った円形プールにマウスやラットを入れ、水面下に隠した足場を探させます。これは空間記憶や海馬の働きを調べるために使われます。

強制水泳試験では、動物を水の入った容器に入れ、泳ぐ時間や動かなくなる時間を測定します。抗うつ薬の候補を調べるために使われてきましたが、動物に強いストレスを与えることや、結果の解釈が単純ではないことから、現在では批判や見直しの対象になっています。

神経科学研究:脳の働きを直接調べる実験
神経科学の分野では、脳の活動を詳しく調べるために、より高度で侵襲的な手技が使われることがあります。
たとえば、脳の特定の部位に電極を入れ、動物が覚醒して行動している間の神経活動を記録する実験があります。これは、記憶、学習、意思決定、運動制御などの仕組みを神経細胞レベルで理解するために行われます。

また、光遺伝学では、特定の神経細胞を光で操作し、ある神経回路が特定の行動に関わっているかを調べます。これらの実験は脳の仕組みを理解するための強力な手法ですが、手術、頭部固定、長期飼育、反復測定などを伴うことがあります。

ウサギに行われる実験
ウサギは、眼刺激性試験や皮膚刺激性試験で使われてきた動物です。
ウサギが使われてきた理由の一つは、体が比較的大きく、目や皮膚の反応を観察しやすいことです。そのため、化学物質、医薬品、化粧品原料、洗剤などが目や皮膚に触れた場合の影響を調べる実験に使われてきました。
特に有名なのが、ドレイズ試験です。
ドレイズ試験は、化学物質や製品が目に入ったときに、どの程度の刺激や損傷を起こすかを調べる試験です。試験物質をウサギの片方の目に入れ、角膜の濁り、結膜の充血、腫れ、分泌物などを観察します。

この試験は長く標準的な方法として使われてきましたが、動物に強い苦痛を与える可能性があること、ウサギの目と人間の目の反応が完全に同じではないことから、代替法への移行が進んでいます。
現在では、再構築ヒト角膜モデル、培養細胞、摘出眼を使う方法、コンピュータ予測などが開発されています。ただし、国や分野、規制の種類によって、代替法の導入状況には差があります。
ウサギはドレイズ試験だけでなく、皮膚刺激性試験、発熱性試験、免疫反応を調べる実験、動脈硬化モデルなどにも使われてきました。
皮膚刺激性・アレルギー反応を調べる実験
皮膚への影響を調べる実験では、ウサギ、モルモット、マウスなどが使われてきました。
皮膚刺激性試験では、物質を皮膚に塗布し、赤み、腫れ、炎症、ただれなどが起こるかを観察します。目的は、その物質が皮膚に触れたときに刺激や損傷を起こすかを調べることです。
皮膚感作性試験では、ある物質に繰り返し触れたあと、免疫反応によってアレルギー性のかぶれが起こりやすくなるかを調べます。香料、防腐剤、染毛剤、化学物質などでは、この評価が重要になります。
この分野では代替法がかなり進んでおり、再構築ヒト皮膚モデル、ヒト細胞を使う試験、化学物質とタンパク質の反応を見る試験、統合的な評価法などが使われるようになっています。
イヌに行われる実験
イヌは、医薬品の安全性試験、薬物動態試験、循環器系への影響評価、麻酔・手術法の検討、獣医療の臨床研究などで使われることがあります。実験施設で使われるイヌでは、体格や性格が比較的安定しているビーグル犬が多く用いられてきました。
実験施設での薬物試験では、一定期間薬を投与し、体重、食欲、行動、血液検査、尿検査、心電図、臓器への影響などを調べます。目的は、その薬が体内でどのように吸収・分布・代謝・排泄されるか、また心臓、肝臓、腎臓などに有害な影響を与えないかを確認することです。研究内容によっては、実験終了後に安楽死させ、臓器を詳しく調べることもあります。
たとえば、2021年に報告された麻酔薬候補ET-26塩酸塩の安全性研究では、ビーグル犬を用いて心血管系への有害作用が評価されました。このような研究では、薬の候補物質が心拍数、心電図、血圧などに影響しないかを確認します。つまり、犬は「薬が体に入った後、心臓や循環器に危険な変化を起こさないか」を調べるために使われることがあります。

一方で、犬を対象にした研究には、ヒトの医療に応用されるケースもあります。たとえば、自然に癌を発症した犬は、ヒトのがん研究や新しい治療法の検討に使われることがあります。この場合は、実験施設で病気を人工的に作るのではなく、すでに病気を発症して治療を受けている犬について、飼い主の同意を得たうえで、治療効果や副作用、病気の進行を調べます。犬の自然発生がんは、マウスモデルでは再現しにくい腫瘍の多様性や免疫環境を持つため、比較腫瘍学の分野で研究対象になっています。
ただし、犬を使う試験は減少・見直しが進んでいる領域でもあります。かつて農薬登録などで行われていた犬の長期毒性試験の一部は、科学的必要性が見直され、各国で削減・廃止が進んできました。2018年には、米国でビーグル犬を用いた農薬関連試験が動物保護団体の調査で問題視され、最終的に試験が中止され、犬が譲渡された事例もあります。
イヌは社会性が高く、人間との関係性も深い動物です。そのため、動物実験の中でも倫理的な抵抗感が特に強く生じやすい動物種です。現在は、医薬品の安全性確認などで使われる場面が残る一方、ヒト細胞、オルガノイド、コンピュータ予測、AIなどを用いた代替法への移行も進んでいます。。
サルに行われる実験
サルなどの非ヒト霊長類は、人間に近い生理機能や神経系を持つため、脳科学、神経疾患、感染症、ワクチン、免疫、薬物動態などの研究に使われることがあります。
最近話題になった試験には以下のようなものもありますね。
Neuralink(イーロン・マスク社):2018〜2022年に少なくとも1,500頭の動物(マウス・ブタ・ヒツジ・サル)を使用されました。UC Davis霊長類研究センターでアカゲザル20頭以上にチップを埋め込み実験し、複数頭で脳浮腫・部分麻痺・自傷行動などの合併症が報告されました。この件に関しては、米国農務省(USDA)が調査したことが報告されています。

COVID-19(コロナウイルス)の流行においてもサルの感染症モデルの需要が爆発的に増えました。
主要なワクチン開発:2020〜2022年の間に世界で数千頭のアカゲザル・カニクイザルが新型コロナウイルス感染実験に使用されました。サルを麻酔下で気管内・鼻腔内に高用量のウイルス(10⁴〜10⁶ TCID50)を投与し、最大3週間にわたり呼吸器症状・体重・ウイルス量を観察し、最終的に剖検されました。中国のサル輸出停止(2020年)と重なり、世界的なサル価格高騰が起きました。
その他にも長時間の拘束、単独飼育、侵襲的な脳手術、感染症モデル、薬物投与など、サルに大きな負担を強いる研究が行われてきました。現在では、多くの研究機関で、飼育環境の改善、社会的飼育、環境エンリッチメント、麻酔・鎮痛、ヒューマンエンドポイントの設定などが求められています。
それでも、サルを使う研究は倫理的に重い問題を含みます。サルは認知能力や社会性が高く、心理的ストレスを受けやすい動物です。そのため、非ヒト霊長類の使用は、代替法がないか、科学的に本当に必要か、苦痛をどこまで減らせるかを特に厳しく検討すべき領域です。
魚類に行われる実験
動物実験というとマウスやウサギを想像しがちですが、魚類も多くの研究で使われています。代表的なのが、ゼブラフィッシュやメダカです。
魚類は、発生過程を観察しやすく、胚が透明な種もあるため、体がどのように作られるのか、遺伝子がどのように働くのかを調べる研究に使われます。また、環境中の化学物質が魚の発生や成長に悪影響を与えるかを調べる環境毒性試験にも使われます。
この研究は、人の医学研究だけでなく、水環境の保全、農薬や化学物質の安全性評価、養殖魚の健康管理、魚の発生異常の予防などにも関係します。たとえば、ある化学物質が魚の発生を阻害することが分かれば、河川や養殖環境でのリスク評価につながります。
魚類は哺乳類よりも「痛みや苦痛を感じにくい」と考えられてきた時期もあります。しかし現在では、魚にもストレス応答や侵害刺激への反応があることが知られており、魚類であっても福祉上の配慮が必要だと考えられています。
なお、タコは魚ではなく頭足類ですが、近年はタコなどの頭足類や、カニ・エビなどの十脚甲殻類にも苦痛や感覚経験がある可能性が議論されています。イギリスでは、2022年の動物福祉感受性法で、脊椎動物に加えて頭足類と十脚甲殻類も対象に含められました。
このように、「どこまでの動物が苦痛を感じるのか」という議論は、魚類や無脊椎動物にも広がっています。
実験後、動物はどうなるのか
多くの動物実験では、実験の最後に動物を安楽死させ、血液や臓器、組織を採取します。
これは、血液成分、臓器重量、病理組織、遺伝子発現、タンパク質、代謝物などを調べるためです。たとえば、肝臓に毒性が出ていないか、腎臓に障害がないか、脳に損傷がないか、腫瘍がどのくらい広がっているかを確認します。
マウスやラットでは、CO₂吸入はよく使われる安楽死法の一つです。ただし、それだけが使われるわけではありません。研究目的、動物種、年齢、採取する組織、施設の規程によって、麻酔薬の過量投与、頚椎脱臼、断頭、麻酔下での放血などが使われる場合もあります。
重要なのは、どの方法であっても、研究機関の動物実験委員会や獣医師の確認のもとで、できるだけ苦痛を少なくする方法が選ばれるべきだという点です。
また、実験動物には「ヒューマンエンドポイント」という考え方があります。これは、動物が過度な苦痛を受ける前に実験を終了する基準です。たとえば、体重減少、摂食低下、歩行困難、腫瘍の大きさ、出血、潰瘍、活動性低下などを基準にして、実験の継続可否を判断します。
動物実験は苦痛の程度でも分類される
動物実験は、すべてが同じ苦痛レベルではありません。
短時間の観察や軽い採血のようなものもあれば、手術、疾患誘導、長期投与、強い症状を伴うモデルもあります。
| 苦痛の程度 | 内容の例 |
|---|---|
| 軽度 | 短時間の保定、軽い採血、軽微な投与、通常の観察 |
| 中等度 | 手術、反復投与、一時的な強いストレス、疾患モデルの一部 |
| 重度 | 長期の強い苦痛、重い疾患モデル、苦痛軽減が難しい処置 |
| 覚醒なし | 全身麻酔下で処置し、動物を覚醒させずに終了 |
この分類は、動物実験を単に「ある・ない」で見るのではなく、どの程度の負担があるのかを考えるために重要です。
大学の授業でも動物が使われることがある
動物実験は、企業や研究機関だけで行われるものではありません。大学や専門教育の実習でも、動物が使われることがあります。
獣医学、畜産学、薬学、生理学、解剖学などの分野では、動物の体の構造や機能を学ぶために、解剖、臓器観察、採血、投与、麻酔、手術手技、生理反応の観察などが行われてきました。勿論、教育目的であっても、動物にとっては処置や死亡を伴う場合があります。
この点については別記事で詳細記載しますが、世間の方々が想像する授業とはかなりかけ離れた実態があると思っています。
例えば血液中の成分について学ぶ実習では採血からやることが多々あります。
しかし学生は採血が初めてなので、うまく採血することができません。その結果何度も針を刺す(無麻酔)ことになり、採血部が赤黒く腫れることがあります。しかし、あくまで授業で使用するだけですので鎮痛剤投与などはしません。

また別の例では、実習を担当する研究室の学生が教員の補助要員となり、実習を受けている学生に指導することがあります(TA制度)。その際に指導する学生は当然、練習してから指導に臨むことになるので使用する実験動物の数は実習そのものだけでなく、その準備段階で使用した数も加算されます。大体、数十匹を使用した採血あるいはサンプリングを行うことになります。
その他の事例については別記事で近日中に公開します(大学の実習で行われる動物実験の実態について)。
問題点
これが獣医師を目指す学生やそのほか専門職で必要となる技術習得のために行われるなら、やむを得ないと納得される方もいらっしゃると思います。しかし問題は、そうではない学生が多く存在することです。これらの実習は動物を専門に学習する学部では多く取り入れられており、獣医学部に限ったことではありません。そのため、その学部に入学した学生は卒業単位取得のために参加しているにすぎず、体験イベントの一環に過ぎないという学生が一定数存在しているという点が問題だと思います(今後の人生でその手技を用いない学生が多いことに加え、1回きりの実習で学んだ手技をずっと覚えていられるわけでもないので、その意味でもどこまでこの方法に意味があるのかは考える必要があるのではないでしょうか)。
近年では、映像教材、模型、シミュレーター、既存標本、バーチャル教材、培養細胞、3Dプリント教材などを活用し、教育効果を保ちながら動物使用を減らす取り組みも進められています。そういった学生にはそちらで代用して学習するような単位習得も可能にすべきかもしれません。
化粧品分野では動物実験は変わりつつある
化粧品分野は、動物実験をめぐる制度が大きく変化してきた領域です。
EUでは、化粧品の完成品や成分に対する動物実験が段階的に禁止され、2013年には動物実験された化粧品や原料の販売も原則として禁止されました。
ただし、ここは単純に「化粧品の動物実験は完全になくなった」とは言い切れません。化粧品成分の中には、医薬品、洗剤、工業化学物質など他用途でも使われるものがあります。その場合、化粧品規制では動物実験が禁止されていても、化学物質規制や労働者曝露、環境リスク評価のために安全性データが求められる場合があります。
つまり、同じ成分でも「化粧品として使う場合」と「化学物質として安全性を評価する場合」では、関わる規制が異なることがあります。この点が、化粧品分野の動物実験を分かりにくくしている理由の一つです。
この部分は、図で整理すると分かりやすくなります。
| 見方 | 内容 |
|---|---|
| 化粧品規制 | 化粧品としての動物実験や販売を制限する |
| 化学物質規制 | 労働者曝露、環境影響、他用途での安全性を評価する |
| 問題点 | 化粧品では禁止されていても、別制度で安全性データが求められる場合がある |
動物実験を減らすための代替法
動物実験を減らす考え方として、国際的に重要なのが3Rs(スリーアールズ)です。
3Rsとは、Replacement(代替)、Reduction(削減)、Refinement(苦痛軽減)の3つの原則の頭文字をとったものです。Replacement は動物を使わない方法に置き換えること、Reduction は使う動物数を減らすこと、Refinement は動物の痛みや苦痛を軽減し、実験方法を改善することを意味します。
現在、動物実験の代替法としては、培養細胞試験、再構築ヒト皮膚モデル、再構築ヒト角膜モデル、オルガノイド、organ-on-a-chip(オルガン・オン・チップ:臓器の機能を小型デバイス上で再現する技術)、コンピュータ予測、AIによる毒性予測、既存データの活用などが研究・導入されています。
| 代替法 | 内容 | 主に使われる領域 |
|---|---|---|
| 培養細胞試験 | 細胞を使って毒性や反応を調べる | 毒性、薬効評価、刺激性 |
| 再構築ヒト皮膚モデル | ヒト皮膚に近い3D組織で評価する | 皮膚刺激性、皮膚腐食性 |
| 再構築ヒト角膜モデル | ヒト角膜に近い組織で評価する | 眼刺激性 |
| オルガノイド | 幹細胞などからミニ臓器様構造を作る | 疾患モデル、薬効評価 |
| organ-on-a-chip | 臓器機能を小型デバイス上で再現する | 薬物動態、臓器間相互作用 |
| コンピュータ予測 | 化学構造や既存データから毒性を予測する | 化学物質評価 |
| 教育用シミュレーター | 模型やVRで手技を学ぶ | 大学実習、獣医学教育 |
特に、皮膚刺激性、皮膚腐食性、眼刺激性、皮膚感作性などの分野では、代替法がかなり進んでいます。
一方で、全身性の毒性、複雑な免疫反応、発生、生殖、脳機能、臓器間相互作用など、まだ動物実験に依存している領域もあります。
よくある質問
動物実験で使われた動物は最後どうなりますか?
多くの場合、実験終了後に安楽死され、血液や臓器、組織が採取されます。これは、体内でどのような変化が起きたかを確認するためです。ただし、実験内容によっては観察のみで終了する場合や、繁殖・維持に使われる場合もあります。
化粧品の動物実験はもう行われていないのですか?
EUなどでは化粧品の動物実験や販売が厳しく規制されています。一方で、原料が他用途でも使われる場合や、国・地域の規制によっては、安全性データとして動物試験が求められる場合があります。そのため、「完全になくなった」とは言い切れません。
日本では動物実験は規制されていますか?
日本にも動物愛護管理法や実験動物に関する基準があります。ただし、EUやイギリスのように、国全体で動物種別・苦痛度別の詳細な統計が公開されているわけではありません。各研究機関の自主管理に依存している部分が大きく、透明性には課題があります。
動物実験の代わりになる方法はありますか?
あります。培養細胞、再構築ヒト皮膚モデル、再構築角膜モデル、オルガノイド、organ-on-a-chip、コンピュータ予測、AI毒性予測などが使われ始めています。ただし、すべての実験をすぐに置き換えられるわけではなく、分野によって代替の進み方に差があります。
まとめ:動物実験は「何を、何のために行っているのか」を分けて見る必要がある
動物実験といっても、その内容は一つではありません。
マウスやラットには、疾患モデル、毒性試験、薬効評価、行動試験、神経科学研究などが行われます。ウサギには、眼刺激性や皮膚刺激性の評価が行われてきました。イヌやサルは、医薬品の安全性、神経、循環器、感染症、ワクチン研究などに使われることがあります。魚類は、発生、遺伝子機能、環境毒性の評価に使われています。
動物実験には、医学や安全性評価の中で果たしてきた役割があります。一方で、動物に苦痛や死亡を伴う実験が行われてきたことも事実です。
だからこそ重要なのは、「動物実験は必要か不要か」と一括りにすることではありません。どの分野で、どの動物に、何を、何のために行っているのか。そして、どの部分はすでに代替できるのか、どの部分にはまだ課題が残っているのかを分けて考えることです。
化粧品や日用品のように、代替法や企業方針の確認が進んでいる分野では、消費者が「動物実験を行わない方針の製品」を選ぶこともできます。クルエルティフリー認証の見方や、日本で買えるブランドについては、以下の記事で詳しく整理しています。
関連記事:クルエルティフリーとは?認証マーク・安全性・選び方をわかりやすく解説
関連記事:日本で買えるクルエルティフリーコスメ|ブランド・入手先・選び方まとめ
関連記事:動物実験以外の安全性確認方法とは?細胞試験・3D皮膚モデル・代替法を解説



コメント